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年老いて初めて先祖の墓に額ずく
2011.10.13 (木) 金蒼生 contributor@jejujapan.com

    「済州島」を生きる     

 

   
▲ 済州の伐草(墓の草刈)風景
日本と比べて、済州島の夜明けが早いのか、済州人が早起きなのかわからないまま、命じられた時間に間に合うように支度をする。いつもは閑散とした我が村のバス停付近が賑々しい。ひっきりなしに乗用車やトラックが山に向かっている。共同墓地や家族墓地に向かう車の列だ。村でたったひとつの雑貨屋も老夫婦が心得たとばかりに店を開いている。夫の五親等の甥がワゴン車で迎えに来る前に私も軍手を買った、朝の7時。法事には来られなくても、土饅頭の形をした墳墓の草刈に顔を出さねば親不幸者とそしられるそうだ。陰暦8月1日から15日の前までに行うとされる。航空会社は本土からの伐草帰省客のために臨時便を運行し、職場では伐草休暇が与えられる。

  昨年10月末に父祖の地である済州島に移住した私たち夫婦にとって、初の伐草だ。ワゴン車の後部座席には電動草刈機や鎌や鋤が積んであった。

  まず、飛行場近くのに向かう。既に30数名の老若男女が草刈に精を出していた。挨拶もそこそこに軍手をはめ、鎌を借りて、見様見真似で草を刈る。轟音と共に飛行機が頭上を飛ぶ。飛行機の腹を仰ぎ見ながらの作業だ。若者は電動草刈機で草をなぎ倒し、お年寄りや女たちは石垣の隙間の草を、削ぐように作業する。それぞれが自分の体力に見合った仕事ぶりだ。墓所一帯にはびこり、腰あたりにまで伸びた雑草、そして墳墓を覆いつくす蔓や蔦が綺麗に刈られて、もとの土饅頭があらわれる。墳墓が生きているかのようだ。

  日本でも僑胞はこの陰暦8月15日にあわせて墓参りをする風習がある。大阪と奈良の県境にあるに夫の門中の共同墓地があり、嫁たちが供物を分担して持ち寄り、ご先祖に挨拶をした後に車座になって皆でいただく。なだらかな斜面に拡がる墓所のあちこちでご先祖に額づく人々の姿は、異国で暮らしながらも故国の風習を次世代に伝えてきた在日一世の思いの実りだ。年老いた一世から四世五世の赤ん坊までが集う。二百基をこえる墓碑のあいだから、子供たちの笑いさざめく声が聞こえてきたものだ。

   
▲ 上、済州の伐草(墓の草刈)風景 撮影 : 金蒼生 下、撮影 : ヤン・ヨンジン
  同じ墓参でも日本と済州島では趣がまったく違う。火葬の日本と土葬がいまだ根強い韓国。棺を土中に下ろし、その上を土で踏み固めてつくる墳墓。猛々しく生い茂る雑草を刈りながら、土の中のご先祖と対話するのがこちらでの墓参であり、伐草なのだ。三つの墳墓に供え物をし、ご先祖に挨拶を済ませると、草刈道具を持って次の場所へと車で移動。

  車は漢拏山の中腹へと向かう。車窓の向こうには馬や牛がのんびり草を食んでいる。乗馬場を過ぎ、さらに車を走らせたところに次の墳墓が、なんと牧場の中にあった。すべての車が牧場の入り口で一旦停止し、消毒液を浴びる。口蹄疫防止の措置である。何故、こんなところに?と長老に尋ねたところ、牧場になったのはここ最近のことだという。一族が暮らす村から遠く離れた山の中腹に墳墓をつくったのは、風水観に照らして、「気」がとても良いからだそうだ。なるほど、目に染み入るような牧草地が拡がり、仰ぎみると漢拏山が、眼下には海が輝いていた。風景に癒されるとはこういうことなのだろう。帽子を目深にかぶり、首にタオルを巻き、汗を拭い、腰を伸ばすついでに漢拏山の頂上を眺めての草刈は楽しくもあった。

  一行は更に次の墓所へと向かう。済州道庁設立の共同墓地だ。済州市街全域が見渡せるところに立地しており、墳墓の数は1000基を越えていそうである。見下ろせば丸い土饅頭の間から人の頭がいくつも見え隠れする。草に覆われた緑の墳墓、綺麗に刈られて茶色い地肌を覗かせた墳墓。そのコントラストが面白い。既に伐草を終えたところは、坊主頭で神妙にかしこまって並んでいる男子中学生のようで、思わず笑みがこぼれる。

  すっきりした墳墓の前に敷物を敷いて、門中の30数名が遅い昼食をとる。各自が持ち寄った弁当に、マッコリやビール、世話人が用意した冷製スープまで、野外の昼食としては豪華なメニューとなる。それにまた、汗をながした後のビールは格別だった。が、伐草はまだ終わらなかった。次の墓所に向かったときには、人数は三分の一に減っていた。おまけにその日で一番広く、200坪はあろうか。どこに墳墓があるのか、見渡す限り荒地であり、藪だった。どの顔も疲労の色が濃い。しかし、手を抜けない。一抱えもある雑草の束が墓所周辺に幾重にも並べられていく。刈られて1時間も経たぬうちに青々としていた雑草の色が色褪せていく。墳墓が生き物であるなら、草もまた生き物なのだった。荒地の中から姿をあらわしたのは夫の祖父母の墳墓だった。墓碑には入島後の来歴に続いて、植民地時代に渡日した舅、姑、夫の兄弟、息子、甥たちの名前が刻まれていた。故郷の近親が在日三世をも忘れずにいてくれた。在日僑胞は失郷民ではなかったのだ。入島20代目になる夫は日本で生まれ育った。齢69歳になるその夫が初めて祖父母の墓前に額づいた。

  感傷にひたる間も無く、車で更に移動。それぞれの墓所が誰かにとっての特別な場所なのだ。弱音を吐くわけにはいかない。と、空を仰いだ途端、大粒の雨。小降りになるのを車の中で待って、再び伐草にとりかかった。夕立で息を吹き返した虻や蚊が襲いかかる。夕日が稜線を染めはじめた頃、ようやく終わった。7箇所を巡った。「ああ、今年も皆のおかげで無事に終わった…」汗と泥で色の変わった野良着の爺様が顔をほころばせる。この笑顔に再びお目にかかるために、来年の伐草には、マイ草刈鎌で草を刈ろうと思う。

 

金蒼生

1951年生。日本の大阪で生まれ育った在日二世。作家。著書に「わたしの猪飼野」「赤い実―金蒼生作品集」「イカイノ発コリアン歌留多」「在日文学全集10巻」所収。訳書「済州島四・三事件 第六巻」など。2010年10月、済州島に移住。
 

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