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海女文化との出会い
2011.10.10 (月) 余田幸夫 contributor@jejujapan.com
   

撮影 : Douglas MacDonald

 私は人事異動発令によって、今年の5月、慣れ親しんだ済州を後ろ髪を引かれる思いで離任し、次の赴任地・釜山に転勤した。「世界平和の島・済州」での3年間、総領事として勤務しつつ、心温まる済州の人々とその民俗文化、天恵の自然美から私は多くの刺激を受け続けた。そのうちの一つが韓国と日本にしか存在しない海女文化であり、今も脳裏に鮮明に焼きついている。

済州に着任して一ヶ月後のある日曜日、竜頭岩付近の岩場に腰を掛けて海女を眺めていると、後方から女性たちの迫力ある声が聞こえてきた。済州の方言なので殆ど内容は理解できない。振り向くと黒や紫色などのゴム潜水服を着て海女5人が、さっそうと海辺に降りてくる。顔に目をやると、皆年配の方々。頭に水中眼鏡、腹部に錘を付け、肩には網の袋(日本語でスカリ)と浮(ウキ)を掛け、手には磯ノミやヤス(魚とりの道具)と足につける水掻きを持っている。目の前で海女を初めて見た私は、いささか興奮気味。

彼女たちは水中眼鏡を顔にあて、準備万端、そして両手で浮きを前に突き出して海に入る。私は目の前の海で展開される海女二人のムルチル(潜水作業)に釘付けになる。二人が同時に頭を水中に入れるや、4本の足が海面に現れ、かと思うと再びすぐさま勢い良く海中に消える。海面に残っているのは赤や橙色の鮮やかな浮のみ。暫く静寂が続いた後、突然水面に二人の頭が浮かび、同時に「ピュ−」と小鳥の鳴き声のような心地よい音が聞こえる。

これは体に負担を掛けないために徐々に吐き出す呼吸法から出る音だと聞いた。そして収穫物である海底の貝や魚等を網の袋に入れる。

 この一連の動作を二人が一緒に何度も何度も繰り返す。二人の息がぴったりで、一見、シンクロナイズド・スイミングを見ているような錯覚に陥るが、それ以上に神秘的なものを感じさせられ、ついつい凝視してしまう。この時以来、私は海女に取りつかれてしまった。


三多の島

済州は「三多の島」として知られる。風と石と女性。年間を通じて風が吹き、火山島なので奇岩怪岩はもとより、家屋や田畑や墓地の周りに積まれた石垣が、独特の風情をかもし出している。女性の数が多かったのも事実であろうが、むしろその存在感の大きさを語っているのだと思う。厳しい自然と闘い、家事や子育てはもとより、昼間は海でムルチルか畑仕事、一日中休む暇なく働き続ける。忍耐力と生活力のある強靭な女性像を意味しているようだ。

昨年の春、東側の海岸道路をドライブしながらエメラルドグリーンの海を眺めていたところ、突然、目の前に100名程の海女集団が現れた。「海女小屋」の周りからは大きな笑い声が聞こえる。しばらくすると、いっせいに立ち上がり、潜水用具を持つ海女集団が海岸道路を堂々と、かつ悠々と闊歩し始めた。潮の流れや風の状況等を観察しながら海に入るタイミングを考える。そして10数名ずつのグループに分れて、それぞれ定められた海岸に降りていき、一人ずつ数珠繋ぎのようになって遠くへ泳いでいく。青々とした海一面に色とりどりの浮が鮮やかに広がって行く。そして4~5時間にもわたる壮大なドラマを展開する。大自然と人間の見事なハーモニーであり、まさしく芸術のように感じる。

ところで、「海女小屋」の周辺にはカラフルな新品のオートバイや車が所狭しと並んでいた。彼女たちが自宅から乗りつけたもので、恐らく十数年前までは、このような交通手段が個人で持てるとは想像出来なかったのではなかろうか。更に注目すべきは、海女たちが持参してきた籠が、バイクの荷台や小屋の周りに放置されていること。その籠には飲み物のボトルや風呂敷包みなどが入っているが、その辺には警備員も見張りも誰もいない。この光景は、済州島が三多の島であると同時に「三無の島」、すなわち「泥簿、門、乞食」の無い平和な島であることを改めて実感させる。年々観光客は増大するが、この美しい三無の島を決して汚してはいけないと思った。


海女文化を通じた日韓交流

   
▲ 撮影 : Douglas MacDonald

済州の東部に立派な海女博物館がある。海女のムルチル関連道具や生活習慣、食事、家をはじめ済州を理解する上に同博物館は大いに助けとなる。海女の人口は減る一方と言われているが、現在、現職および前職がそれぞれ約5,300人、合計約1万600人、年齢的には50歳代以上が9割強を占めている由。日本でも激減して今では全国3千人程度と言われる。この貴重な海女文化を絶やすことなく継承していくためには、後継者の養成が必要であり、済州道では海女学校が設立された。

日韓双方で、海女に関するシンポジウムが毎年開催されており、海女の相互交流も実現し、海女の道具の寄贈や海女写真の相互展示会等、様々な交流が活発化していることは素晴らしいことである。済州の海女の歌「イヨドサナ」は、単調なようではあるが、何度聞いても飽きない不思議な魅力がある。最近では、日韓双方が協力しあって海女文化を世界遺産として登録すべく努力中とのことであり、遠くない将来に実現することを願っている。


神々しい海女ハルマン(老婆の済州語)

秋のある週末の夕方、世界自然遺産の「日出峰」近くの海辺を散歩していると、直ぐ近くに一つの白色の浮が見えた。その後、一人の海女が海面から現れ、収穫した海産物を一杯入れた網袋を海辺の岩の上に引っ張り上げた。薄暗くて顔はよく見えないが、小柄でか細く、腰がかなり曲がった老婆であった。彼女はその大きな網袋を背中に負い、90度位に腰を曲げ、夕陽を背にしながら砂浜を横切り、やがて草むらの中に姿を消した。その後ろ姿は神々しく、思わず心の中で合掌した。済州島は、1万8千の神々がやどり、神話や伝説の宝庫と言われる。近年国際自由都市を目指して急速に発展を続けている済州島。それだけに済州独特の貴重な民俗文化を一層大切に保存し発展させていくことが重要だと思う。

海女の皆様の御健康と、11月に済州が世界7大景観に選定されるよう祈念している。
 

在釜山日本国総領事館 総領事   余田幸夫       contributor@jejujapan.com

 

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