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いまはなき桜ノ宮「龍王宮」―在日済州人女性たちの祈りの場所―
2012.05.14 (月) 藤井幸之助 contributor@jejujapan.com

    済州ゆかりの日本の地、人 ①   


   
▲ (上)大川(旧淀川)の河川敷にあった「龍王宮」の姿 (下)「龍王宮」の最後のクッの準備に余念のない人たち   撮影:藤井幸之助
大阪市都島区のJR環状線桜ノ宮駅の鉄橋下、大川(旧淀川)左岸の河川敷にそれはあった。済州人が多く住む生野区猪飼野からも多くの女性たちがここに通った。いつできたかは正確にはわからないが、解放前から近辺の川辺でクッ(賽神・巫俗儀礼)がおこなわれていたようだ。

その龍王宮については、 故郷済州島につながる異郷の水辺で朝鮮人がクッをおこなっていた祈りの場所という意味、そしてそれに加えて「不法占拠」の立ち退き問題があるが、特に前者は在日朝鮮人研究でこれまであまり扱われてこなかった問題である。

私たちと龍王宮とのかかわりは、さかのぼること3 年前の2009 年春、発足間もない「こりあんコミュニティ研究会」のメンバーが龍王宮の中に入ったことに端を発する。

それからほぼ毎月のように、クッをおこなう部屋を、研究会の会場として利用させていただき、多くの人が龍王宮という場所を直接知る貴重な機会をもった。夏は藪蚊の襲来に、冬はすきま風に悩まされながらも、数十年にわたる済州島出身の女たちの祈りの場としての龍王宮を肌で感じることができた。

個人的な思い出に触れると、大阪外国語大学で朝鮮語を学ぶ学生だった1980 年代前半に、JR 環状線に乗って鶴橋に向かう途中に天満駅をすぎて大川の鉄橋を越えると、 不思議な風景がいつも目に入ってきた。木々の緑に囲まれたプレハブの屋根に「龍王宮」と書かれた看板があった。その見慣れない名前と水辺にあることから「龍宮城」かなどと思った。そしてその後、写真家の藤本巧さんのお仕事を通して、ここが朝鮮人の女たちの祈りの場であることを知った。しかし、当時、解放(戦)後の朝鮮人学校を中心とした在日朝鮮人教育史を勉強していた私なのに、それだけでおわってしまった。だから私の中では四半世紀後の龍王宮との再会だった。

前記の研究会に「コリアン・マイノリティ研究会」のメンバーも合流して、「『龍王宮』の記憶を記録するプロジェクト」をたちあげた。地理学・建築学・社会学・歴史学・言語学・民俗学・宗教学・文化人類学など多彩な研究者や、国籍・職業・年齢なども多様な人々が参集してくれた。この3 年間で、建物の実測調査や関係者への聞き取り調査を行い、2 年目には実際のクッを何度か見る機会もえた。この間、メンバーの金稔万さんがクッの実際を丁寧に撮影してくれた。しかしながら、龍王宮でのクッ自体まだまだわからないことばかりだ。

また、イベントを通じて、多くの人に龍王宮の存在を伝えるために、2009 年8 月と2010 年7 月に「龍王宮祝祭」を2 度開催した。サブタイトルを「もうひとつの水都大阪」としたのは、龍王宮の存在意義を全く認めず繰り返し立ち退きをせまった大阪府・大阪市の「水都大阪」キャンペーンの向こうを張ってのことだった。龍王宮を大阪の中の大切な有形・無形文化財のひとつとして認めるように主張したのである。。新聞社からの取材も受け、紙面を通して龍王宮と私たちの取り組みについて広く訴えることもできた。

おととし2010 年8 月に龍王宮管理者高田商店が自ら撤去した。、桜の名所の一部として、公園整備されることになっているが、いまだにフェンスで囲まれた更地のまま放置されている。

撤去前に、管理者の許可を得た上で龍王宮にあった祭器・屏風・神図・打楽器ほか、さまざまなモノを可能な限り回収し、大阪市立大学都市研究プラザの大淀プラザに保管させてもらっていたが、このたび、そのほとんどを済州大学校在日済州人センター(2012年5月オープン予定)に、一部を東京の在日韓人歴史資料館に送った。地元の大阪で保管・展示という夢は実現しなかったが、散逸を防ぐことはできた。これからは済州での展示に進んで協力したいと思っている。

昨年2011年3月には、大阪コミュニティ財団の助成金などをもとに、「龍王宮プロジェクト」の成果を1冊の報告書にまとめた。龍王宮プロジェクト(藤井幸之助・本岡拓哉)編『「龍王宮」の記憶を記録するために–済州島出身女性たちの祈りの場』こりあんコミュニティ研究会龍王宮プロジェクト刊である。
http://www.ur-plaza.osaka-cu.ac.jp/archives/GCOE_Report18.pdf

この場所の景観が変わったとしても、「龍王宮プロジェクト」は継続する。特に、金稔万さんを中心に ドキュメンタリー映画『龍王宮の記憶(仮)』の完成に向けて、努力している。

その一方で、龍王宮に関わった方々への聞き取りを中心にして、今後とも学際的な知を集めて、調査・研究をしていきたいと考えている。本紙を手にしたみなさんのご協力や情報の提供をお願いしたい。

この3月初旬に、コリアン・マイノリティ研究会月例研究会第100回を記念して、「写真家安世鴻さんと一緒に行く済州島ヨンドゥングッ」という4泊5日のツアーを企画した。下道里・北村里・健入洞・新陽里を見て回った。龍王宮でその一部を見たクッを、本場である済州で体験することができた。お昼に海女のみなさんから頂いたお供え物のお下がりのおいしかったこと、ありがたかった。また行きたい。

 

藤井幸之助
ふじいこうのすけ 1961年、大阪府高槻市生まれ。現在、神戸女学院大学非常勤講師、 コリアン・マイノリティ研究会世話人。共著に『多民族日本のみせかた–特別展「多みんぞくニホン」をめぐって』(国立民族学博物館調査報告64)、共編著に『ある在日コリアン家族の物語–つないで、手と心と思い: 絵と物語で読む在日100年史』(アットワークス)ほか。
 

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大川(旧淀川)の河川敷にあった「龍王宮」の姿  撮影:藤井幸之助
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