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新年を祝い、先祖を敬う日 旧正月
2012.02.02 (木) 佐藤あゆみ contributor@jejujapan.com

   
▲ (左から)祭事用のアマダイは炭火で焼くのが習わし、  呉文福先生宅の門前祭    写真提供「朴蓮薏」

「済州では、祭膳に餅の代わりにパンを供えるというのは本当ですか」済州東洋文化研究所所長をなさっている書家呉文福先生にお会いしたら、真っ先に聞こうと思っていた質問だ。

旧正月や秋夕(旧盆、日本の中秋の節句)は韓国では「名節」と呼ばれる。その供物料理の一つとして済州では「餅」の代わりに「パン」をお供えするという話が、あるテレビ放送がきっかけで有名になったのだが、それは済州以外の土地の韓国人にとっては不思議なのである。

例えば、私の夫はソウル出身で、婚家ではテレビで見かけるものと大体同じような名節料理、つまり、ごく平均的な韓国の名節料理をお供えしている。日本のお雑煮のような餅入りの汁「トックク」、焼き魚、牛カルビの蒸し煮「カルビチム」、エゴマの葉にひき肉を挟んだ「ケンニプジョン」、ひき肉と豆腐を小さな平たい丸型に焼く「トングランテン」、青唐辛子の肉詰め「コチュティギム」、肉や野菜を彩りよく串に刺して焼く「サンジョク」、各種のナムル(生野菜や茹で野菜の和え物)、季節の果物、それに四角くて大きな餅「シルトク」、色とりどりの小さな餅「ソンピョン」、甘酒、酒、油菓子などを供える。

ところが、呉先生宅は全く違う。品数は多くないが、より神聖な雰囲気を醸し出し、その儀式の原風景を見るような気がした。そしてなるほど、白くて丸い蒸しパンが供えられている。供物台の隅で、美しく厳かな雰囲気を醸し出し、祭祀の供物に絶対に欠かせないと思いこんでいた餅、その代わりにパンを供えるとは…。しかし実際に目にしてみると、白いパンは済州島の祭祀にしっくり馴染んでいた。

   

▲ パンが供えられた祭壇    写真提供「朴蓮薏」

パンを供え物にするのは、どうやら最近になってからのことらしい。済州では古来、米がほとんど穫れないから、蕎麦粉を麺に打ったり、チジミ状に焼いたものを供えたりと、必ずしも餅を必要としない習慣ができていた。その延長で、現在でも蕎麦粉のパンケーキのようなものが供えられたりと、パン類がすんなり受け入れられるようになったのだろう。

その他にも済州の供え物には独特なところがある。朝鮮半島では海産物として白身の魚、イシモチや、変わったところではタコを丸ごと茹でて供えたりする。それに対して済州島ではオクドムと呼ばれるアマダイの開きを供えるのが一般的で、時にはアワビ、ブリの串焼き、鮫の肉なども並ぶ。また、朝鮮半島では牛肉料理が根付いているが、済州島では豚肉を使うことが多い。それ以外に、島で採れるわらびやハンラボン(済州特産のみかん)などが載る。こんな風に、半島と済州島の名節料理は異なるばかりか、家庭によっても異なったりするのだそうである。

韓国では、正月の祭祀は新年を祝い家族の健康を願うと共に、先祖を敬い祀る意味がある。元来は年に何度もあり、それぞれにさまざまな意味を担っていた祭祀が2回に減少してしまった。そのように少なくなった名節に、旧来の多くの意味を込めるといった具合で、正月の名節に先祖を祀る意味も加わったと言われている。

ところで名節といえば、ここ数年よく耳にする言葉がある。「名節症候群」である。主婦だけがかかる精神的・肉体的疾患だそうだ。韓国では、旧正月や秋夕の連休には、親戚中が集まって祭祀が行われるのだが、その際の様々なストレスのせいで体調を崩す主婦が多いのである。例えば、名節料理の準備や来客のもてなし、さらには、夫方の家族との葛藤、金銭的な負担、深刻な帰省ラッシュなど実に様々な要因がある。しかも、この症状には国籍など関係ないらしい。私もどうやら名節症候群のようなのだ。大した仕事もしないのに、名節が近づくと憂鬱な気分になってしまう。

呉先生から何か助言を貰えるかも知れないと、名節の祭祀を行うときに一番大事に考えていることは何か尋ねてみると、「一番大事なことは先祖を敬う心、料理、その他はあくまでも二の次です」との答が返ってきた。

先生は名節の三日前から斎戒をし、心身の穢れを掃って先祖を祀る用意を整えるという。穏やかな顔で静かに話す先生を見ていると、その精神だけでも真似できたら、と思わずにはいられなかった。そして、名節症候群などと、あまりにも俗な考えに捉われていた自分を反省することしきりだった。

実は、我が家でも、結婚当初と比べると、年々名節料理を簡単に済ませるようになっている。家で餅を作るのをやめて餅屋に注文するようになり、私の作った鶏のトマト煮も載るようになった。聞けば韓国人の友人宅でも同じようなものだという。それどころか、何年も前から名節の祭祀を行わなくなったという知人までいる。韓国では日本以上に海外生活者が多く、国際結婚も多い。それに女性が外で働く率も非常に高い。我が家だけでなく、この変化は韓国社会全体の流れなのかもしれない。

祭祀も時代と共に変化してもいいではないか、とも思う。しかし、日本から嫁いだ私としては、簡単にそうは言いきれない。韓国人の文化を自分から発見して理解しようとしなければ、隔たりが大きくなってしまうような気がするのだ。難しいことはできないし、何から始めればいいのかわからない。でも、「一番大切なことは先祖を敬う心」という先生の言葉は大きな励ましになった。今年の名節は、私なりにそうした気持ちで祭祀に臨めばいいのでは、と思い直したのだった。


取材・文  :  佐藤あゆみ   contributor@jejujapan.com

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