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臍の緒を大地に還して祈る済州人 ―「セギョンノリ」
2012.01.30 (月) 金大安 contributor@jejujapan.com


   
▲ (左) 牛島での「ノリ牌漢拏山」の公演 (右)「ノリ牌漢拏山」の牛島でのセギョンノリ公演   撮影 : 金蒼生

済州島帰郷一年を迎えて、神話と巫術を枢軸に据えて、済州島民共同体復元を願う人々に思いを巡らしている。近現代史の推移の中で、アメリカから、日本から、そして本土から、怒涛のように押し寄せる資本によって共同体が破壊された。資本主義の成熟過程で、世界のどこにでも現出したことであろうが、ここ済州の人々は今もって共同体衰弱に心を痛めている。日本の高校在学時、鉄道が敷かれることに闘いを挑んだ馬車夫たちの思いに、産業革命の非情を覚えた記憶が呼び起こされる。

済州ウィークリー日文版第二号で読んだ、朱剛玄博士の『一万八千の神々と共存する島』は私の浅はかさを照らした。博士は済州を『神の故郷』とし、人々は今も神々と共に生きている、と断言されている。

私の若い友人たちは自らを『ノリ牌漢拏山』の広大(クァンデ=芸人)として、『セギョンノリ』というマダンクッ(広場で行う巫俗の祭祀)を引っさげて、済州の村々を経巡り、共同体復元の祈りを捧げ続けている。2006年から今年まで37回、今年の秋は日本大阪の道頓堀でも祈った。

日・韓伝統芸能人らによる『道頓堀ハナマダン・フェスティバル』に招かれたのである。主催陣の一員であった在日済州人三世の金哲義、金民樹らが招いたようだ。道頓堀は江戸期17世紀頃には芸能の街として栄え、ここ半世紀前までは栄華の夢を貪った大都市大阪の中でも有数の繁華街である。その後の芸能衰退の潮流の中で、今年が道頓堀掘削四百年の節目であることから、『道頓堀ルネサンス』を掲げたのがこの祝祭である。『ノリ牌漢拏山』は十月十三日に法善寺横町の芸能の神様として崇められている水掛不動に祝祭の成功を祈願して『クッ』を奉納した。最終日十六日『セギョンノリ』という広場クッを披露した。なんと大酉を張ったのである。

『セギョンノリ』とは土、大地の神様への感謝を済州人の遊びの精神を諧謔の風趣でまぶし、同時に皆で和して遊ぶ祝祭である。済州人は生まれた赤子の臍の緒を燃やして大地に還す。臍の緒、それは生命を育む一筋の道、すなわち大地に繋がる。『身土不二』、土と生命は一つであるという信念が『セギョン』という農耕の神への信仰を篤くしている。済州島のそこかしこに『身土不二』の石碑が見られる。

島が生まれて以来、済州人と大地は一つであった。『土の顔して、土の衣を纏って』、石ころだらけの痩せこけた土地を耕し、村人らはその収穫を分け合ってようやく生きることが出来た。分かち合い助け合うこと無しには生きられなかった人々の、慎ましくも敬虔な祈りが『セギョンノリ』であるが、開発という美名のもとに押し寄せる資本と権力は済州人と大地を分け隔てた。それでも彼らは村々を経巡って共同体復元を呼びかける。

物語には土地の神が人の姿を借りて現れる。トルネという女が嫁入りしたが奴婢のようにこき使われる。年端もゆかぬ子供のような夫とは夫婦の営みもままならぬ。一人で野良仕事に精出す時が唯一の息抜きである。だがそんなとある昼下がり、強姦されてしまう。トルネの体調不良の原因を神房(シムバン=巫術師)は見抜いた。つわりであった。神房の「堕ろせ」の言葉に、「これも深い縁あって、三神(子授けの神)婆様が賜れたもの。産みます。育てます」とトルネは毅然と答える。トルネに横恋慕する作男のジョンナムが離れず寄り添う。陣痛。婆神様に助産を頼む。婆神様は目が見えないことを良いことに、観客の女性の股座を開こうとして笑いを誘う。マダンクッは終始観客をいじり倒す。野良仕事の途中で、排尿に見立てた水を観客に向かって撒き散らしたのには仰天。難産。「この世で一番貴く、苦しいのが母になることよ」と説法。遂に誕生。「おう、でかした。ちんちんが付いているぞ」「あれ?目も鼻もないのっぺらぼう!」「それがどうした、きっと立派に育てますゆえ婆神様、臍の緒を燃やして大地に還してくださいな」婆神様が臍の緒を噛み千切り、燃やして大地に祈る。厳粛。圧巻。済州の夜の広場が生命の炎に赤く照らされる。笑いこけた村人らの心に、島が生まれて以来、受け継がれた神々への敬虔、感謝の灯が燈る。生まれた男の子は酒瓶のように顔がのっぺらぼうなのでペン(瓶)ドリと名付けられ、あれよという間に十五歳。子が健やかに育ったのは、やはりセギョンの神のお陰と祭祀を行う。でもペンドリは勉強嫌い。千字文覚えれば米が出来るのか?皆が医者、判事、大臣になれば誰が米をつくるのか?と食ってかかる始末。『農者天下之大本』の申し子ここに在りである。トルネはそんな息子に思い切って畑仕事を任せた。なんと!ペンドリは工夫と努力を重ねて、石ころだらけの瘠せた土地に豊作をもたらした。やれ豊作だ、万作だ、村中総出のお祭りである。

強姦による父無し子の出産、しかも障碍児の養育、二重三重の艱難を共同体の支えを得て克服し、いつもセギョンの神、大地の神に感謝する済州人の篤い信仰心が胸を打つ。

私は僧であって、唯識佛教やユングの深層心理学に触れて、僧、神房、巫女らが言葉を越えた世界に住むことがあるものと信じる。瞑想、禅定。巫術や神道における遥動の彼方に『自他不二』の悟りがあるものと思っている。しかしいつもではなく万能でもない。故に、彼らに任せて夢を追うわけにはゆかぬ。

だが、一万八千の神々を敬い、自己と一体である森羅万象に感謝し、ペンドリのように工夫と努力を重ねて、分かち合い、助け合う共同体を、復元ではなく、創造することを夢みる。

 

金大安
1942年、日本大阪に出生。父は45年6月、光復2ヶ月前、大阪空襲で焼夷弾直撃によって即死。小中高大と日本学校に通う。教員、団体職員、古書店自営の後、僧職。(法名、大安。)昨十月、済州帰郷。

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